Written by Daniel


※広島会のダニエルさんが執筆したストーリーをさがりの会(福岡)のてらださんが翻訳&加筆してくださいました。
この場を借りてお礼申し上げます。素晴らしい翻訳本当にありがとうございました!それでは皆さん、てらださんによる翻訳文をぜひお楽しみ下さい。
 パウロ=サンドロス大尉は、彼の中隊を南部宇宙港の周囲に散在する廃墟化した居住区に進駐させた。

 優れた指揮官であるインペリアルフィスト中隊長は彼らスペースマリーンが何者かこの廃墟に巣食う先客達の監視下にある事を察知していたが、この程度の危険では彼の固い決意は揺らぎもしなかった。アデプト・ビアド=ドゥアが発見され、ライフジェネレーターが再起動するのが時間の問題となった今、中隊の新たな最重要目標は『例の個体』の捜索だ。そのために何としてもこの南部宇宙港地域一帯はインペリウムの支配下におかねばならない。

 サンドロス中隊長は、ビアドとライフジェネレーターについての権限を奇跡的な回復を遂げたクラウザー卿に委ねた、何故ならばサンドロスには新たな任務が待ち受けていたからだ、それは誰あろう英雄ダルナス=ライサンダー中隊長を通して口頭で直接もたらされた・・・これが如何に緊急でしかも重要な任務である事はサンドロスならずとも瞬時に理解できるだろう。その任務とはリーダー有機体#1324として知られる危険なティラニッド個体のジーン・サンプル回収であった。もちろん組織が死滅しているものよりも細胞が活動している事が望ましい・・・!

「これは『オルド‐ゼノス(注@)』の連中からの依頼に違いないが・・・しかし秘密主義の連中が我々に頭を下げてまで渇望するサンプルだと? 件の個体が持つ特殊能力とはデスウォッチ・チームがジェニスに到着するまでの僅かな時間すら惜しむほどの脅威なのか・・・?」

 サンドロスはティラニッドという種族の底知れぬ恐ろしさに軽い戦慄を覚えたが重要任務を一身に受ける栄誉がそれすらも忘れさせた。使命感に燃える勇者サンドロスは何の躊躇もなくこの命令を受諾した。
 インペリアルフィストはこの都市の廃墟群にティラニッドの残存戦力が留まっているという情報を得ていたがどうやらここでサンドロス達を待ち構えていたのは虫どもとは全く違うタイプの異種族であった。
 サンドロスのライマン耳管(注A)が察知したのは虫どもが息を潜めてこそこそと動き回る音ではなく、ごくわずかな機械の駆動音−それも帝国兵器の物とは違ってより滑らかな音‐二足歩行のライトヴィークル、ウォー・ウォーカーの主砲が射角調整する軽やかな音だった。

「・・・奴らか!」
 狙撃の危険を察知したパウロ=サンドロスは部下に散開命令を出して遮蔽物に身を潜めさせた。間一髪、歩兵殺しのスキャッターレーザーの砲撃がエリア全体へ豪雨の如く降り注がれた。

 中隊長はスキャッターレーザーですら物ともしない重装甲のターミネーター分隊とヴィンディケイターを正面に押し立てて彼らを楯に敵との距離を詰めた、同時に彼の副官に命じて衛星軌道上のバトルバージへ増援の緊急降下要請を出させた。ドロップポッドから降りた増援がウォー・ウォーカーに肉薄し地上部隊の前進を援護した。

 この3次元的な連携作戦でサンドロスはウォー・ウォーカーによる奇襲を凌いでこれを撃滅したが、エルダーもまたサンドロスの打つ手に柔軟に対応した。高機動を誇る反重力戦車は瞬く間にインペリアルフィストを包囲し、十字砲火を浴びせかけたのだった。
高出力レーザーとシュリケン・バレットが、そしてスペースマリーンのボルトガン・バレットとオートキャノン弾頭が、辛うじて原形を留めていた居住区の廃墟を跡形もなく破壊していった。

 乱戦の最中、中隊長はまたとない好機を掴んだ。
 狡猾で用心深いエルダーの指導者アウタルーク・ジェイドその人をその視界に捉えたのだ!

 二人の司令官は期せずして直接対峙する事となった。お互いじりじりと間合いを測りながらその場でゆっくりと回った。何人も近寄りがたい張りつめた空気があたりを支配していった・・・
緊迫を破ったのはエルダーの司令官。俊敏さで優るジェイドが打って出た!
打ち合うパワーフィストとパワーウェポンのエネルギーフィールドが重なり、行き場を失った高エネルギーの束があらぬ方向へ四散して二人の周囲に迸る。

 数世紀に渡り蓄積されてきた戦闘経験によってジェイドはマリーン達の振るうパワーフィストの攻撃パターンを熟知していた。ただし、武器の特性から太刀筋がある程度予測できていたとしても超人的な力で振り下ろされる一撃を避けるのは並大抵の事ではない、自らの体捌きに絶対の自信を抱いているジェイドの俊敏さがなければその経験を活かす事も出来なかっただろう。
ジェイドは一瞬の隙を突いてサンドロスの胴に致命的な一撃を繰り出した。ジェイドへ放ったはずの拳による打撃は空を切り、サンドロスは敵の一撃を受けて膝から崩れ落ちた。傷付いた中隊長にこれ以上の戦闘継続は不可能だった。思わぬ損害を受けたサンドロスは戦術的撤退の命令を全軍に出した。
 反重力戦車による追撃に備えながらサンドロスは後退を始めたがエルダー側からの攻撃はピタリと止んだ。彼らはマリーンがこの居住区から撤退する事だけで満足しているように感じられた。

無事に退却したパウロ=サンドロスは医務室の治療台にその身を横たえている間、エルダーに探索を妨害された自らのツキの無さを呪っていたが、傷が癒えてくると冷静さを取り戻して作戦を練り直した。

「ティラニッドとケイオスが倒れた今も尚、この星系の戦いはまだ終わっていないようだ。ジェニスSU号星は未だ危険な戦闘地域である事に変わりはない・・・闇雲に探索するのではなく効果的にサンプルを入手する方法を考える必要があるな」
 サンドロスはリーダー有機体#1342の探索のためとは言え、虱潰しにジェニスを行軍する行為が如何に危険であるかを今回の襲撃で思い知った。

「バグ共を誘い出し、罠にはめればいい・・・しかしどうやって?」
ティラニッド達を誘き寄せるような・・・そんな妙案があるのだろうか・・・
【訳注】
★注@
『オルド‐ゼノス』Ordo Xenos
 オルド‐ゼノスとは、いうなれば『ゼノハンター』、もっと俗っぽい言い方をすれば『エイリアンハンター』と呼ばれる対異種族戦専門の特殊機関であり、オルド‐マレウス(ディーモンハンター)、オルド‐ヘリティクス(ウィッチハンター)と並んで通常の軍事体系から独立した3つの異端審問機関・・・インクィジター組織の内の1つである。
タウ、ネクロン、オーク、ティラニッド、そしてエルダー達の言語や思考回路、生態やテクノロジーの解明をする事で彼らとの戦闘を有利に進めるノウハウを得る事が主な任務であるが他の独立機関と同じく秘密主義でありながらインペリアルガードやスペースマリーンの連隊の協力を取り付けて問題に当たる事が多い。ただ、オルド‐ゼノスは他の二機関と比べてより幅広い範囲での迅速な初動が求められる反面、異種族の研究や対抗武器の開発でインクィジターは忙殺されている。そんな彼らが直々に戦地に赴いてサンプルを回収したり市井への異種族の介入を調査するのは物理的に不可能であるため、インクィジター達の代わりに『デスウォッチ』と呼ばれる5~20人のマリーンからなる特殊部隊を送り込んで問題の解決やサンプル回収に当たらせる事が多い。彼らデスウォッチは、有名なチャプターからオルド‐ゼノスにスカウトされた異種族との戦闘経験が豊富なヴェテランマリーン達だ。対ティラニッド専門チームはウルトラマリーンチャプターから、対オーク専門チームはクリムゾンフィストからの徴集兵を中心にして構成されると言った具合である。彼らのパワーアーマーは黒を中心に銀のコントラストという配色で統一されているが、ショルダーアーマーの配色だけはさまざまだ。彼らは自分がかつて在籍していたチャプターカラーとシンボルを刻んでいるのだが、これは出身チャプターを代表するエリート戦士となった事を周囲に誇示する意味合いと、一目でどの異種族の専門家であるかを見分ける意味合いとの両方の意味があると考えられている。

★注A
『ライマン耳管』
 スペースマリーンの耳孔内に移植される強化された人工器官。通常の何倍も鋭敏な聴力と如何なる状況でも戦闘姿勢を保てるように平衡感覚を司る三半規管が常人の耳よりも大幅に発達している。

 サンドロスとエルダーが南部宇宙港エリアで交戦していたちょうどその頃。ほぼ傷が完治したクラウザー卿は麾下の機甲連隊をもってディーモン共に浸食された南部地域への侵攻を開始した。

 策略家である老コミッサーはお抱えの諜報部隊から重要な情報を入手していた。ジェニスSU号星における真の脅威は裏切り者のロランド上級司令などではなく、次第にその規模を増しつつある歪みからの侵略者、混沌の主ディーモン達・・・ハルコニアン連隊とインペリアルフィスト中隊がジェニスに巣食っていたアルファリージョンとの激しい攻防を繰り広げていたその裏で異界の魔物達は秘密裏に膨張を続けていき今まさにジェニスという惑星の組成そのものまで異界のそれに近付けようとしていた。

クラウザーの胸中は、自らの体を蜂の巣にした忌々しいロランドと彼に従うファーストボーンのレネゲイド達を叩き伏せ、個人的な復讐心を満たしたい欲望で溢れんばかりだった。しかし彼はロードコミッサーとしての職務を貫徹するべく、熱い激情を氷のごとき理性で押し殺した。
諜報部隊からの報告を聞き終えたクラウザーは恐怖で顔が引きつっている部下達の心配を笑い飛ばすかの如く、事も無げに言い放った。

「不浄なる混沌の住人共のいるべき世界は呪われたワープ空間だ、このジェニス星系ではない。まあディーモンだろうが何だろうが我々のやる事は変わらない。帝国の版図に染みを作ろうとする汚物は全てバトルキャノンでぶっ飛ばす・・・早々に元いた穴倉に叩き帰してやる事にしよう」
 冷徹な老コミッサーの心にはディーモンと戦う恐怖心など微塵も入り込む隙がなかった。そしてハルコニアン連隊の精鋭も覚悟は十分出来ているに違いない。しかしながら、現在のハルコニアン連隊には少なからずジェニスガーズメンの新兵が負傷者の穴を埋める形で補充されている。ジェニスの惑星守備軍の主力はもちろん憎きファーストボーンである、彼ら新兵は模擬戦を続けていただけのピカピカだ・・・彼らにとって混沌の住人達の容姿はあまりにも異質に映るだろう。クラウザーは些細な事から全軍の連携が乱れるのを危惧した・・・ディーモンとの戦いで正気を失った新兵が逃走すると部隊全体の士気にも影響が出てしまう。

「昼日中に『奴ら』と戦ってその異形を肉眼で視認するのは若い連中にはちと酷な試練かもな・・・精神を蝕まれないように夜襲をかけるとするか・・・そして、あとちょっとした仕掛けも必要だな!」
クラウザーはにやりと笑った。

部隊は暗闇の行軍で少々連携を欠いていた。こちらが攻撃を仕掛けると言う油断がハルコニアン連隊にあったのかも知れない。
「新兵混じりではこれが限界か」

やや美しさを欠く布陣を眺めて舌打ちするコミッサーの通信機に突如おぞましい叫び声が飛び込んできた。それは特務部隊の斥候『ジョン・ドゥー』が生きたままティーンチホラーに身を焼かれる音だった!
 ジョンの声は言葉にならなかったがクラウザーにはそれで十分状況が理解できた、彼は自らの身体が歪みの炎で焼かれる恐怖に耐えながらクラウザーに敵襲を告げてきたに違いない。

「気取られたか、だが包囲は完成している・・・作戦開始だ」
クラウザーは連隊のプラトゥーンコマンドとタンクコマンダーに射撃開始の合図を出した。
瞬く間に連隊は戦闘態勢に移行、ディーモンの軍勢が存在していると思われるエリアへの一斉砲撃が始まった。インペリアルガードの猛火力が明らかに常世の物とは違う闇、宵闇よりも暗き禍々しき暗黒の渦、ワープゲートへと注ぎこまれた。

 たとえ歪みの世界の住人であろうと常世で実体化した以上は人間の誇る火力が通用する。さまざまな形状の者が入り乱れた混沌の軍勢は曲射砲、レマンラス、そしてラスガンの一斉射で発生した膨大な熱と爆風に晒されその身を四散させていった。
 しかし溢れんばかりに膨れ上がった異形の軍勢はクラウザーの想像を遥かに超えた大群であった。
 赤とも白ともつかぬ白熱化した爆発の中でゆらゆらと蠢く影は明滅するネオンサインの如く消えては現れていく。『それら』は次第に連隊との距離を詰めつつあった。

 人間では到底生き延びられないような熱を歪みの力でねじ伏せた強力なディーモンの一群が宵闇の中から目にも止まらぬ速さで這い出してきて恐怖で叫び声を上げる事しか出来ない新兵をラスガンごと巨大な顎で砕き腹の中に放り込んでいった。
 長年苦楽を共にしてきたハルコニアン連隊の熟練兵やサージャントが突如として出現した見た事のない異形の何かの一群に襲われ、身を食いちぎられ、玩具のように四肢をもぎ取られていった。

 確かに夜襲は正解だったかも知れない、味方の惨殺される様をはっきりと見なくて済むのは新兵にとって有難いことだろう。
 怒号と悲鳴すら聞こえないほどの砲声の中、人間と魔物達の生存を賭けた地獄絵図が繰り広げられた。ハルコニアン連隊は恐怖を押し殺しよく応戦した。ついに連隊はディーモンの抵抗を押し込んで部隊を前進させた。
 いくらかの小さな生命体が周囲の森林地帯に逃げ込んだが空が白み始める頃にはディーモンの軍勢はほぼこのエリアから根絶できそうだった。

 よし、と拳を力強く握りしめると老コミッサーは会心の笑みを浮かべた。
 彼はヴォックスキャスターを通してこの作戦の影の主役、ディーモンの退路を断った強力な助っ人達に感謝の言葉を贈った。
「改めて貴官らの決断と勇気に最大の賛辞を贈ろう・・・ジェニスの英雄達よ!」

 それは何とクラウザーの求めに応じてロランドの元を離反した数名のジェニスファーストボーンのプラトゥーンコマンダー達だった!
 確かに一時はロランドの考えが正義と信じて命令に従っていたが、自らの母星がディーモンの棲み処へと変貌を遂げていく様を見た彼らは命の危険を冒してまでディーモン殲滅作戦に呼応してくれたのだった。
 平時に戻れば反逆した罪を問われるのは必至だ、それがわかっていながら彼らは母星のために戻ってきた。

ファーストボーンの援護が無ければ完全な包囲陣形は完成せず、ディーモンの大軍団を壊滅させる事は出来なかっただろう・・・!

 一方、クラウザーとサンドロスの到着以来、その栄光の歴史にケチが付きっ放しのケイオスロード・ジューダスはまたもや信じられないような災難に見舞われようとしていた。

 インペリアルフィストに本拠地を襲撃され大敗を喫したジューダスであったが彼はまたもや再起を果たしていた。用意周到さと執念深さではサンドロスやクラウザーなど彼の足元にも及ばないだろう。惜しむらくはその運の悪さ・・・!

 ジェニスに蔓延るケイオス信仰の根の深さはクラウザーの想像を遥かに超えて市井一般にまで及んでいた。こうして信者達の支援で追跡の手を逃れたジューダスは最大の危機を脱したのだった。生き延びた彼は念願であるライフジェネレーターの探索を再開した。
しかし、彼と彼の軍勢はエルダーのめぐらした奸計の餌食となった。ジューダスは得た情報通りに探索を進めていたが期せずして手負い状態で大変好戦的になっているリーダー有機体#1342の寝ぐらに足を踏み入れつつあったのだった!

 アークスレイヤー・ジューダスがこの危機的な状況を察知して防御陣形を整える前に、ティラニッドの危険極まりない戦闘個体がアルファリージョンを取り囲んでいた。あらゆるタイプの戦闘個体が無音で忍び寄っていた・・・

 ボルトガンの掃射が間に合う距離ではなかった。満足な射撃が出来ない内に戦士達は底知れぬ深さの地割れの中に落とされ、叩き伏せられ、そしてむさぼり食われていった。

 全軍が恐慌状態に陥り瓦解する前に、ジューダスは彼の部下達に一番近くの構造物の中に飛び込むよう命じた。
「テイク、カヴァー、身を隠せ! ・・・狙うな! とにかく外に向かってあらん限りの火力を叩きこめ! 見なくても全部虫に当たる!」
 彼の乱暴に聞こえる命令が、パニック直前だった全軍を救った。同志討ちの心配を考えなくて良いアルファリージョンの戦士達は寡兵の利を活かして乱戦を制した。一方、味方の身体が邪魔で素早く動けないゴーントとジーンスティーラー達は四方八方から飛んでくるボルトガン・バレットに身体を貫かれていった。

 ジューダスの機転でアルファリージョンはピンチを脱した、これで状況は五分と五分だ。

 ジューダス達は人間に倍するような機敏さで突進してくる獣共を撃ちながらも残りのカートリッジの数を確認する余裕が出てきた。そんな中、幾重にも折り重なったゴーントの死骸で出来た肉壁の向こう側に巨大な柱の如くそびえ立つ影が見えた。ハイヴタイラントが屈強な楯・タイラントガード個体に守られながら戦場に姿を現した。

 ジューダスもティラニッドの特性については研究していた。彼らは無限に増殖する恐れを知らない究極の軍隊だが、もともとは知性らしい知性を持たない野獣をサイキック的なマインドコントロールで強制的に操っている種族だ。『シナプス』と呼ばれる彼らの頭脳・リーダー有機体を叩いてしまえば統制の取れない烏合の衆になり下がる。

 ボルトガン・バレットを弾き返すほどの堅い甲羅、そして少々の傷を物ともしない巨躯を誇るタイラントの参戦は普通に考えれば危機的状況なのだが、ジューダスは逆に考えた。敵の司令塔が現れたのは絶好のチャンスだ、と。
この悪夢のような襲撃を終わらせねば・・・虫共との戦いは何の利益も生まない。
 散り散りになっていた親衛隊に連絡を取って彼は高出力の重火器を自らの元に持ってくるように指示を出した。
「プラズマガンを集めさせろ」

ハイヴタイラントは散らばっているケイオスの戦士達をまるで雑草を摘むかのように造作もなく絶命させていった。
 集まったプラズマガンは少数だった、これだけかとジューダスは舌打ちして自らのプラズマピストルを抜いた。
ケイオスロードと熱烈な彼の支持者達は意を決して巨大な怪物に向かって突撃した。
 ボルトガンは効かない、彼はプラズマガンを装備した親衛隊を引きつれて恐るべき巨獣に立ち向かった。

「混沌の神々よ! 御力をお貸し下さい!」
 プラズマの一斉射でタイラントガードが崩れ落ちた。そしてジューダスの放った熱線がハイヴタイラントの甲羅を貫いた。怯んだタイラントに容赦なくプラズマを撃ちこんでいくと、頭部に無数の穴が空いたハイヴタイラントはゆっくりと倒れた。まだ本能で四肢をばたつかせてはいたが『シナプス』としての機能を完全に失っているようだった。
 これで戦闘が終わる! ジューダスは急いで周囲の状況を確認した、しかし・・・津波のように襲いかかってくるゴーントの代わりに別の戦闘個体が遮蔽物から出てきたジューダス達目がけて跳躍しあらぬ角度から飛びかかってきた。

 タイラントが倒れても活動を続ける事が出来る新たな戦闘個体ジーンスティーラー、そしてそれを率いているのは更に特殊な進化を遂げた強力な個体ブルードロードだった。この恐るべきハンター達がジューダスの死角から突然姿を現したのだからたまらない!

 ブルードロードの恐るべき腕力はジーンスティーラーのそれを遥かに上回る、ジューダスのパワーアーマーなど何の役にも立たない紙切れのような物だ・・・タイラントより俊敏で人間の居住区域に易々と忍び込んでくる比較的小さなブルードロードは考えようによっては最も恐るべき戦闘個体と言えよう、ジューダスは驚きの言葉も出せぬままにブルードロードの爪でズタズタに切り刻まれていた。
 兵員輸送装甲車・ライノが虫の死骸を跳ね飛ばしながらブルードロード達と親衛隊の間に割って入ってきた。彼らは辛うじてブルードロードの魔の手から逃れると急いでライノの側面ハッチに惨たらしい姿になって倒れた彼らの指導者の身体を放り込んだ。

「離脱だ、出せ出せ出せ!」

 最早戦いを継続するメリットはない、ドライバーを急かしてライノを急発進させた。残った戦士達もそれにならってライノへと急いだ、タイラントを失って大群が機能していない今が最大のチャンス・・・!

 さすがにライノの速度には追いつけないらしく、ブルードロードは薄気味の悪い咆哮を残して物影に消えていった。
 悪夢のような襲撃は終わった。小一時間とかからなかった短時間の間の出来事とはとても思えない壮絶な惨劇だった。

 重傷を負ったジューダスだったが懸命な治療が功を奏して奇跡的な回復を遂げていた。彼の執念は傷の痛みを凌駕するのか、まるで何事もなかったかのように次の行動を開始していた。しかし、彼の起こす行動は悉く想定外の何かの来襲によって妨害され続けている・・・どう考えても呪われているとしか思えない。
 混沌の神々がこぞってジューダスを妨害しようと躍起になっているような気さえしてくる・・・いったいどうして!

「・・・ライフジェネレーターに固執しているのがまずいのか? 禁忌に触れようとする私に神罰がくだっているのか?」
 ここまで運に見放されているとさすがにもう、こう考えるべきだろう。ライフジェネレーターは彼にとって鬼門だ。

「このままでは正常に作動するかどうかもよくわからんライフジェネレーターの為にこの身どころかここまで作り上げてきた組織そのものを滅ぼしかねん。栄えあるケイオスロードとしての地位と尊厳、巨大なネットワーク・・・この力を得るためにどれだけの物を犠牲にしてきたか」

 ここに至ってようやくライフジェネレーターを使った計画をあきらめる決心がついたジューダスはこの呪われた惑星を脱出する事にした。

「この惑星での作戦が失敗しただけの事、また別の惑星でケイオス信者を集めてテラの偽帝を倒す戦力を整えるとしよう」

・・・しかし、彼にはまだやらねばならない事が残っていた。
 ケイオスロードとしての自負が、このまま尻尾を巻いて逃げるようにジェニスを去る事を否定した・・・こんなにコケにされたのは初めてだ、報復だ、報復をしなければ・・・!
 この呪われた惑星、この忌々しいジェニスと偽皇帝の犬どもに償いをさせねばどうにも彼の気が済まない・・・そう、そして彼にはそれを実行する手段があった!

「ククク、そう・・・こんな辺境の星がどうなろうが、俺の知ったことか!」

 ジューダスは急に人が変わったような恐ろしい形相で仮初めの執務室に持ち込んだジェニスの天体模型を叩きつぶすと狂ったように高笑いをした。

 ロードコミッサー・クラウザーは、このままジェニスファーストボーンの全部隊をこちら側に寝返らせる事はできないかと考えていた。この惑星を異界に変えようとするディーモンを目の当たりにすれば彼らも自らの愚かな選択に気付くはずだ。

 彼はディーモン根絶作戦を行う事がライフジェネレーターの発見にもつながると確信していた。
ディーモンは既にライフジェネレーターの位置をある程度特定しているに違いない、ディーモンの大群が集まっているエリアは二つあった・・・先日の包囲殲滅戦を行った大きなワープゲートがあった場所ともうひとつ古代文明の遺跡があるエリアだ。
きっとライフジェネレーターはそこに隠されている・・・!

 ところがクラウザーの予想よりも遥かに急速に事態は展開していった。行軍の最中、ファーストボーンからは更に離反兵が出てピラミッド型の古代遺跡でディーモンと交戦中という報告を聞いた。

「よし、これでディーモン共の先回りができた! ・・・ファーストボーンの寝返り工作がここまで上手く行くとは・・・さすがの私も驚いたよ」
 クラウザーのコマンドキメラに同乗していたアデプト・ビアド=ドゥアは神妙な顔で老コミッサーの真意を問うた。

「コミッサー、あなたはファーストボーンがディーモンの主力部隊を相手にして我々が到着するまでの数時間もの間、無事でもちこたえられると思っているのですか? あの危険な聖遺物がたとえ一時の間でも人類の破滅を望む混沌の勢力の手に落ちるような事があればどうなることか・・・ジェニスファーストボーンのような再三の裏切りをはたらくような心の弱き者達に人類の命運を賭けた一戦を託すのはあまりにも浅慮だ。戦力の再編などする暇があったら後先考えずに全速力で寺院まで向かうべきだ」

 コミッサーは背もたれに寄りかかった。「同志よ、わたしは単なるコミッサーではない、有事には自らの判断で師団単位の軍を動かす事ができるロードコミッサーだ。惑星守備軍の勇士達は立派に任務を果たすだろう、ロードコミッサーであるわたしの決定は揺るがない・・・それにファーストボーンとは数ヶ月の間、敵同士として血みどろの戦いを繰り広げてきた間柄だ。我々を何度も窮地に追い込んだ彼らの実力はこの私が一番よく理解しているつもりだ、それこそ身に染みて理解している」

 ファーストボーンとの戦いで生死の境を彷徨い、生身の腕を失ったクラウザーは苦笑交じりに機械の腕を叩いた。

 その態度を楽観的過ぎると感じたのかビアドは首を振りながら嘆息して肩を落とした。
「そう悲嘆したものじゃないぞ、ビアド。ディーモン共の爪で多少引っ掻かれても奴らならケロリとしてるに違いない・・・ところでビアドよ、貴殿の焦りようからライフジェネレーターの正確な隠し場所が『そこ』だと判明したわけだが・・・そんなにライフジェネレーターの安全を心配するのであれば、何故もっと早く我々に協力しなかった? 貴殿が示した情報は漠然としていて絞り込むのには苦労したよ、何というかまあ・・・こうして話している今も協力的な態度とは程遠い態度だしな」

「コミッサー、貴方は事の重大さを全く理解していない・・・誰が敵のスパイかもわからぬ現状で軽々に口を開くほどわたしは愚かではない。現にディーモンとハルコニアンは同じような場所を探索している・・・これは何かしら情報が漏れていると考えるべきだ」
 ビアドはちらり、とクラウザーの顔を一瞥すると完全に信用しているわけではないという素振りで再び視線を落とした。

口の堅い、用心深い男だ。
具体的な話になると万事この調子である、クラウザーもやれやれ、と肩をすくめて彼が自分から情報を提供するのを待つしかなかった。
 数時間後、音声通信機にクラウザー宛てのメッセージが飛び込んできた。ファーストボーン離反者、ロランドに次ぐ地位の老大佐からの報告だった。

「報告します閣下! 我々はディーモンがたむろしていたピラミッド型の古い寺院を確保。異界の住人共を一匹残らず駆除しました」
 コミッサーは喜び勇んで大声を張り上げた。
「よくやった兄弟! 後は寺院を全力で守れ、いいか『死守』だ」
「サー、イエッサー! 愚かにも皇帝陛下に弓引く大罪を犯した我々に、再び双頭鷲の旗の下に集うチャンスを与えて下さった事、寛大なる御措置に感謝の言葉もありません」

 通信を切ったファーストボーンの大佐は古代寺院跡の周囲に部隊を集めると重厚な防御陣を布いた。
 ファーストボーンの面々は異界の住人達がこの程度で引き下がるほど淡白な連中ではない事を肌で感じていた。
先ほどのディーモン達など比にならない規模の『主力部隊』からの猛反撃が彼らを大波の前の小舟のように飲み込んでいくだろう。
 突如、耳をつんざくけたたましい嬌声と共に歪みの王、ロードオブチェンジ・フェイトウィーヴァーの巨躯がジェニスファーストボーンのガーズメンの頭上、防御陣の中心部めがけて襲いかかってきた。

 離反の首謀者であるファーストボーンのカンパニーコマンダーはあっという間に指揮分隊の数名もろともロードオブチェンジの顎の中へ放り込まれた。彼らを守っていた重装甲を誇るレマンラス=バトルタンクも蹴りの一撃で玩具のようにひしゃげてしまった。

 それを皮切りにいつの間にか開いた無数のワープゲートからティーンチの大軍勢が次々と実体化し始めた。司令官を失った守備軍だったが、恐れを自らの意志でねじ伏せた。決して傍らにいるコミッサーから敵前逃亡で処刑されるのを恐れて無理矢理たちどまった訳ではない、贖罪・・・再三の背徳行為を自らの勇気で清算しようという彼らなりの意地とけじめが彼らの足を戦場に留めたのだった。魔物のタフな肉体を吹き飛ばせる見込みは無い、そんなラスガンの一斉射であってもディーモンが寺院を占拠するまで時間稼ぎは出来るはず、ファーストボーンのガーズメンは援軍の到着を信じて一心不乱にレーザーを撃ち続けた。

 ティーンチ神の化身の猛攻が続いた。彼はナーグルの遣わした不浄なるディーモンプリンスと共に小うるさいセンチネル部隊に襲いかかった。為すすべもなくセンチネルの脚部は2体のディーモンの驚異的な腕力でもぎ取られ、不運な操縦者達はコクピットごと地面に叩きつけられて踏み潰されていった。
 空を飛びまわりながら暴虐の限りを尽くしたロードオブチェンジだったがヴィークルの残骸がひっかかって動きを鈍らせた一瞬があった。2台のレマンラス・パニッシャーの砲撃手はその一瞬を見逃さずにパニッシャーキャノンの速射弾をこれでもかと叩きこんだ。数百発にも及ぶ弾頭の渦がティーンチの化身を飲み込み、ついにその羽根をもぎ取ってしまった。落ちたディーモンは更なる射撃の的と化した。

 ロードオブチェンジは息も絶え絶えに人間には到底理解できないほど古い言語で人間に呪いの言葉を吐きかけた。
「歪みの王が、このフェイトウィーヴァーが虫けらの前に膝をつくなどこんな馬鹿な話があるか・・・小物と侮って余自ら前線に出たのが間違いだった! この罪は重いぞヒューマン、うぬらの魂まで我が呪いの炎で焼き尽くしてくれる」

ロードオブチェンジは不吉な言葉を残して倒れたが残虐なディーモンプリンスの突進は未だ止まっていなかった。パニッシャーの砲塔が焼き付いて限界を迎えようとしていたがそれでも火力を集中させ続けた。
 ガーズメンはより慎重に規律正しく整列すると、身をかがめて恐るべきディーモンプリンスの突撃に備えた。
彼らの銃剣とチェーンソードはディーモンプリンスの堅固な鎧の前には無力だった、悉く攻撃は弾かれダメージを与える事は不可能に思われた。ディーモンプリンスは自らの強靭な顎で咀嚼してばらばらになったガーズメンの手足や頭をゆっくりと嚥下した。胃袋に肉をおさめながらおぞましいナーグルの遣いはいやらしい笑みを浮かべた。
コミッサーを一口で噛み殺した後、いまだ空腹が満たされない巨体のディーモンはラットリングスナイパー・チームを数人まとめてひっつかまえるとまるでスナック菓子でも頬張るかのように口の中にぽいぽいと放り込んだ。
「ぎぃにやあああああ!」
粗野だが陽気なアブヒューマン、ラットリング達の一際甲高い悲痛な叫びがガーズメンの勇気を撃ち砕こうとする。

50人を超えるガーズメン達を食らい尽くしたディーモンプリンスだったが、ついにパニッシャーの集中砲火を受けて動きを止めた。
巨大なディーモン達が倒れた後、戦況はファーストボーン有利に傾いていたが如何せんファーストボーンの残存戦力ではディーモンの大群を捌き切れないでいた。戦闘が始まってから数時間後、ついにクラウザーのキメラ連隊が激戦の爪痕が生々しく残る古代寺院の前に姿を現した!
「助かったぞ!」
 ファーストボーンのガーズメン達はハルコニアン連隊の到着に沸いた。

残存しているディーモン達の群れを完全に焼却すべく、勢いに乗ったハルコニアン連隊はキメラから次々に飛び出して異形の魔物を掃射し始めた。

ジェニスファーストボーンは全滅に近い大損害を受けた。しかし彼らはディーモン達から寺院を守り切った。死守せよ、というクラウザーの命令を文字通りに遂行したと言えよう。

ディーモンが排除された事でようやく顔から険しさが消えたビアド=ドゥアがライフジェネレーターの精確な座標を指し示すと巨大な掘削機と専門の遺跡発掘チームが早速遺跡の中に入っていった。やや神経質なほど精確なビアドの指示通りに順調にそして慎重に作業は続けられた。

「この辺にあるとはわかっていても、これはそうそう簡単に見つかるもんじゃないな・・・何というか、スケールが違う」
 クラウザーは呆れて首を振った。

時が経つにつれて、古代文明の遺した聖遺物とも言うべき装置がピラミッドの外装を剥がれてゆっくりとその姿を現してきた。それはクラウザーが思い描いていたよりも遥かに大きく、装置というよりはちょっとした施設の一部のように感じられた。

 インペリアルフィストのバトルバージから2台のサンダーホーク・トランスポーター(注B)が安全の確認された空域を通って降下してきた。しかし、どう考えてもランドレイダーより大きいライフジェネレーターを安全に牽引してバトルバージに乗せる事などとても不可能に思われた、明らかに大きさが違う。

 クラウザーは舌打ちをして司令部付曹長に帝国艦艇でこれが回収できそうな艦が無いかデータベースを検索させた。

「・・・閣下、火星のアデプタス・メカニカスならスーパーヘヴィー・クラスの兵器を回収するピックアップ・シップの予備を多数保有しています、距離的にみてもこれを派遣してもらうのが妥当でしょう。早速アストロパスに交信させますか?」

 クラウザーは露骨に顔を顰めた。

「マーズ・・・地球圏からだと? それはまた長旅だな」

 どう考えても火星から辺境のジェニス星系までは2週間以上かかる。かと言って他方面で激戦を繰り広げている師団にはジェニスのような辺境に貴重な艦船と護衛戦力を割く余裕はないだろう。
 そもそも、秘中の秘であるライフジェネレーターの件をどう説明すればいい? 情報が漏れればテラのハイロード達から社会的に抹殺されかねない。

「・・・まあアデプタス・メカニカスには直接連絡せずにサンドロス中隊長から直接テラのお偉いさん方に頼んで、裏からマーズに手を回してもらうのが筋だな。もともとライフジェネレーターの確保はインペリアルフィストの任務だ、表向きハルコニアンはこのアーティファクトの価値については何も知らない事にしておいた方が後々無難だろう」

「了解しました閣下。インペリアルフィスト司令部に伝令を出します」
 ややこしい事になっているが、まあ仕方が無い・・・とクラウザーは溜息をついた。
しかし、2週間は長い。ハルコニアン連隊とファーストボーン離反部隊はこのエリアからディーモンという最悪の汚染を除去する事に成功したが、未だ他の異種族がこのジェニスには潜伏しているはずだ、彼らはこうしている今でも姿を現したライフジェネレーターをクラウザー達から奪取せんと虎視眈々と奇襲の機会を伺っているかも知れないのだ。
(クソが。2週間もの間、ライフジェネレーターとそのオペレーターであるビアドを外敵から守り切れ、という事か? 畜生、嫌な予感がしてきた)

 クラウザーは注意深く回収車輛にライフジェネレーターを接続するとモデスティーハイヴまで牽引する事にした。そこでピックアップ・シップの到着を待つ以外に打つ手は無い。
(・・・いやいや待てよ? ティラニッドとエルダーは壊滅的な打撃を受けてまともに機能してないはず、レネゲイド共を操っていた悪名高き殺戮卿ジューダスは戦死したと聞く・・・巨大なワープゲートはちょうど昨晩破壊したばかりだ。ディーモンが消えた今、最早誰が我々を出し抜いてこの巨大な装置を奪い取れるだろうか?)

 クラウザーは2週間という長い待ち時間を聞いて背筋に軽い悪寒を覚えたが、冷静に考えてみれば今の味方戦力を脅かすほどの脅威は最早ジェニスには存在しないと考えられる。
(やれやれ、これはどうやら要らぬ心配だったか)

 ここのところ様々な勢力が現れては消えていき戦局が目まぐるしく動いていた。そんな臨戦態勢が当たり前になっていたので警戒態勢を解いても構わないという平和な状況をクラウザーがド忘れしてしまっているだけなのだろう。
実のところ、ジェニスSU号星はパウロ=サンドロス中隊長、ゲイリー=マクミラン大佐、そしてロードコミッサー・クラウザーといった一握りのインペリウムの英雄達の手によって混沌の魔の手や異種族の侵略から完全に救済されたかのように思われた。
その場に居合わせたハルコニアン連隊の将兵達とファーストボーンの生き残りのガーズメン達は激しい戦いを生き延びた喜びからそれまでの因縁を忘れて手を取り合い抱き合って皇帝の威光を讃えた。

 一抹の不安を感じていたクラウザーも、その戦勝ムードに当てられたのかそれ以上深く考えるのを止めてモデスティーハイヴへの帰途を急ぐことにした。敵と戦わなくても、戦死者の弔いや負傷者の治療、弾薬の補給、車輛の修理といった具合に司令官がやらねばならない仕事は山積みなのだから・・・

 しかし。
 ジェニスにおける最終決戦は終結したどころか、むしろこれから始まるところだった・・・!

 止めを刺されなかったリーダー有機体#1342は、リッパーの大群を取り込むと胎内でドロドロにそれらを溶かしながら体組織を再生させていった・・・ジューダスがプラズマガンで空けた穴はほぼ塞ぎ始めていた。ライフジェネレーターの放つ生命の波動を敏感に感じ取った特殊なハイヴタイラントは以前よりもその体躯を一回り大きく成長させていた。
 
 彼は傷が完全に癒えたのを確認すると新たに進化した戦闘個体の大群を引き連れて潜伏していた山麓から這い出した。ライフジェネレーターに導かれるがままに#1342はモデスティーハイヴ目がけて猛烈な勢いで行軍を始めた。それが本能的な行動なのかハイヴマインドの指示によるものなのかは誰にもわからない。

 戦いの舞台から降りたと思われていたグレーターディーモンが、力を失い無惨な姿で異界を漂っているフェイトウィーヴァーの残滓を見つけて高らかに歓喜の声を上げた。

「んー、見た顔だなぁ・・・お前もしかしてフェイトウィーヴァーか? わからないか、私だよ私、テンプテイトリックス様だよ! ヒャハハッハ! 残念、お前が罠にはめたと思っていた相手はまだまだ健在だよ! 策士、策に溺れるというのはフェイトウィーヴァー、お前の事さ・・・間抜けめが、このテンプテイトリックス様がティーンチ臭いチビのスパイの存在に最後まで気付かなかったとでも? 今度は私がお前の代わりにチビのチェンジリング共々お前がこっちに残してきたティーンチの大軍勢を率いてやるから安心するがいいさ。まあ、お前が来てくれなかったら私が人間どもに代わりにやられていたかも知れないのだから、その点に関しては感謝してもし足りないぐらいに感謝している・・・ありがとうよ、ハハハハ!」
自分を陥れた相手の無様な敗戦に、この上なく上機嫌のキーパーオブシークレットは歌うように続けた。

「〜可愛い可愛いアウタルークの魂は〜、剣の先に串刺してねぇぶりましょ、ねぶりましょ・・・! もう片方で神秘のライフジェネレーターを鷲掴みぃましょ、掴みましょ・・・! ああ可哀そう、可哀そうなのは間抜けで迂闊な『フェイト』ウィーヴァー! 代わりに星の『フェイト』(命運)を掴むのは〜、強くて賢いテンプテイトリックス! クククク!」

ジェニスを狙うディーモンの影はまだ消えてはいなかった・・・!

 そしてクラウザーがモデスティーハイヴに到着した頃、殺戮卿ジューダスはモデスティーハイヴから100キロと離れていないエリアで大勢の『信心の足りない未熟者達』に離反されたロランド=デス=ガルドと合流を果たしていた。

「ロランドよ・・・貴殿はアルファリージョンの為、混沌の神々と余によく仕えてくれたが余はこの惑星を捨てようと考えている。だが脱出はまだ先の話だ、我々にはまだ奴らに十分な復讐をなしていない。そう今こそ貴殿の忠誠と信仰の力を刃と化して余と共に憎き偽帝の犬、ロイヤリスト共を絶望のどん底に叩きこむ時だ。忌まわしいライフジェネレーターとビアド=ドゥアはこの惑星から一歩足りとも出しはしない・・・ビアド共々ロイヤリスト全員の首を祭壇に祭り、杯を奴らの鮮血で満たすのだ」
 ロランドは勢いよく答えた。
「もちろんです我が君! 私は既に『次の段階』に進む準備が・・・混沌の御力に全てを委ねる覚悟が出来ています!」
 昂揚した面持ちでロランドは混沌の力への忠誠を誓った。

 ロランドの双眸は最早、人の物とは思えない怪しい光を放ち始めていた・・・

 ‐つづく‐
【訳注】
★注B
『サンダーホーク・トランスポーター』
 衛星軌道上のストライククルーザーからチャプターの戦闘車両を直接地表に投入するための強襲揚陸艇。
サンダーホーク・ガンシップの機体を改修してライノなら2台、ランドレイダーのサイズなら1台を迅速にかつ安全に運ぶ事が出来る。直接兵員を乗せて輸送する事はほとんどないが、ヴィークルを運ぶだけでなく燃料や弾薬を安全に運搬したり、落としたドロップポッドを回収して再利用するという役目を担っている。マリーンの作戦行動には無くてはならない重要なヴィークルである。
Battle Results
第四回戦
1. エルダーはスペースマリーンに勝利したがSouthern Starportの支配権を奪取できなかった。
2. インペリアルガード(ハルコニアン)はデーモンに勝利し、1つのタイルを得た。
3. ティラニッドはケイオスマリーンに勝利し、1つのタイルを得た。
4. インペリアルガード(PDF)はデーモンに勝利し、さらに1つのタイルを得た。

Current Standings
1. Imperial Guard (Imperial Faction) - 11
2. Daemons (Chaos Faction) - 6
3. Eldar (Xeno Faction) - 5
3. Tyranids (Xeno Faction)-5
3. Space Marines (Imperial Faction) - 5
6. Chaos Marines(Chos Fanctions)- 4

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